キツネ色に揚がった、薄くて平べったい「フィッシュカツ」。揚げたてをサクッとかめば、魚のうまみやカレーの風味が広がる。県内のスーパーには様々なメーカーの商品が並ぶ。おかずや酒のおつまみに、大人から子どもまで親しまれる徳島のソウルフードだ。
フィッシュカツを最初に売り出したとされる「津久司蒲鉾(かまぼこ)」(徳島県小松島市)を訪ねた。店の目の前は小松島港。海路で関西と結ばれ、「四国の東門」と呼ばれた港町だ。
フィッシュカツを売り始めたのは、1955(昭和30)年ごろ。「もともと店ではちくわや天ぷらをつくっていて、余った魚を処分するために考えたのでは。カレー粉を入れたのは臭み消しだったかもしれません」と3代目社長の古川登さん(72)。
小松島港の近海でとれたタチウオやエソ、アジに加え、北海道産のスケトウダラを使い、すり身にして30~40分練る。カレー粉や唐辛子、調味料を混ぜ、型をとってパン粉をつけて180~185度の油で1分間揚げる。機械化が進んだ現在は、1日に1万~1万5千個を生産する。
価格は1枚100円。規格外の魚を安く仕入れることができるためで、「海辺にある蒲鉾屋の特権。大手はまねができません」。
味付けの配合を知っているのは古川さんだけ。小さいころから店を手伝い、大学を卒業後に働き始め、40歳で社長になった。以来、フィッシュカツの味を守ってきた。「時代とともに味も変わるもの。今の人たちにも合うよう味を追求しています」
食べ方も様々だ。そのままでもおいしいが、オーブントースターやフライパンでかりっと焼いてソースをつけたり、パンに挟んだり。卵でとじてカツ丼にしたり、お好み焼きに入れたり。「ケチャップとソース、砂糖をつけながらフライパンで焼くのが我が家の名物。ごはんのおかずや、ビールのあてにもなります」
記者も古川さんおすすめの作り方で、早速挑戦。カリカリの衣にケチャップやソースの酸味、甘みが合わさり、ふんわりとカレーの香りがする。マヨネーズを混ぜてもおいしそうだ。
フィッシュカツは市民にとって、なくてはならない存在だ。製造と販売を兼ねた店には、市内の小学生らが見学に訪れる。とくしまマラソンでは10年にわたり完走者にフィッシュカツを贈ってきた。小松島市出身の俳優、故・大杉漣さんはたびたびテレビで紹介し、年に数回は買ってくれるほど好きだったという。
古川さんは決意を新たにする。「フィッシュカツは市民の生活のなかからできたブランド。これからも安くて安全なものを提供していきたい」
いつまでも残ってほしい、ふるさとの味だ。(伊藤稔)